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避けては通れなくなったカスタマーハラスメントへの対応とは
最近多いご相談の「その5」として、今回は「カスタマーハラスメント対策」に関するご紹介です。
様々な種類のハラスメントがありますが、その中でもカスタマーハラスメント対策に関するご相談を多くいただいております。
カスタマーハラスメントは、クレームに端を発することが多いのですが、以前からクレーム対応といえば、お客様のご不満を傾聴すること、つまり相手の話に耳を傾け、言っている言葉と、言わんとする気持ちを捉えることを基本としています。
ところが最近では、その対処や解決内容に満足できない場合、更にエスカレートし、過剰、悪質、理不尽な要求へと発展し、また最初から高圧的なお客様もいらっしゃる場合もあり、従来のクレーム対応では「満足しない」のではなく、従来の手法では「対処しきれない」という新たな問題が生じたことで、要求や言動をする人に対し、新たな対応を知る必要性が生じています。
また対応する従業員は、人間としての尊厳を侵害されることで精神的苦痛を伴うことも多く、今まで以上の対策を講じる必要性がより高まっています。
昨今では、厚生労働省より「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が公表され、宿泊施設においては旅館業法の改訂により、ハラスメントに起因する「宿泊拒否」が可能にはなったものの、
「具体的にどのような対応をすべきか教えてほしい」
「すでに取り組んでいる企業の事例などを参考にして、カスタマーハラスメントの知識を深めたい」
などといったご相談をいただいております。
このように、従来のクレームに対処する研修だけでは対応できなくなりつつある現状を踏まえ、宿泊ビジネスサポート課では、次の3つのポイントでカリキュラムを検討し、実情に合った研修や講習をご提案しています。
一つ目は、カスタマーハラスメントに対する対策として最も重要である、従業員全員がハラスメントの定義やそれがどのような影響をもたらすのかを理解することです。「カスタマーハラスメントとは何か」、「クレームとカスタマーハラスメントの違いは何か」といった基礎知識を正しく理解したうえで、共有することが必要です。 カリキュラムでは「クレームを未然に防ぐ」ことにも触れ、その対策として先ほど触れた傾聴を習得するため、実際に起きたクレーム事例を取り入れたロールプレイングを行います。
さらに、カスタマーハラスメントに対する対処の一つでもある、アサーティブコミュニケーション(相手の立場を尊重しつつも、自分の意見・感情・主張も大切にして、その場にふさわしい言い方で相手に伝えること)の活用も学びます。このように、アサーティブコミュニケーションの活用を加えることで、初期対応や事例対応から対処法を身に付ける、座学とロールプレイングを組み入れた実践的なカリキュラムをご提案しています。
二つ目は、ハラスメントに対し、企業としての明確な方針と対応手順を明確に策定し、それを全員が理解し実行できるようにすることです。例えば「発生時の対処法」として、ハラスメントが発生した場合の報告、それに続く調査、そして必要に応じ適切な対策を講じることなどです。
すでに取り組んでいる企業の一例として、首都高速のコールセンターでは、以前から通話内容を録音していることを通話の冒頭で告知することで、相手側に「あまり問題のある発言は控えるようにしよう」と警戒させ、トラブルを未然に防ぐ効果がありました。しかし最近では、要求内容が不当であると判断した場合など、通話の途中でも理由を伝えたうえで電話を切るという運用を始めました。
また、対面での対応が基本となるサービス業などでは、カスタマーハラスメントと判断した場合、途中でもサービスの提供を中止し、警察への通報ならびに以降の施設利用を禁止するという対応を百貨店の高島屋で始めています。
このように、対外的にハラスメントに対する企業としての立場を明確にし、その対応を示す指針などを作成、発表することも、カスタマーハラスメントの発生を未然に防ぐことに役立つでしょう。最近では運輸業やサービス業を中心に、ホームページなどに指針を掲載することで、毅然とした対応を行う姿勢を内外に示す企業が増えてきています。このような取り組みが、世間一般に認知されることで一定の抑止力が働く可能性があり、期待されていることから、カリキュラムでは、自社に置き換えたときの参考になるよう、実際に先行して取り組んでいる企業の事例を紹介しています。
三つ目は、自社内のサポート体制の整備です。カスタマーハラスメントに直面した従業員が、自分の体験を共有し、援助を求めることができる環境を整備することも重要です。これには信頼できる相談窓口の設置や、必要に応じて心理的なサポートを提供すること、などが含まれますが、内容によっては警察や弁護士などへの相談が必要となる場合もあります。このようなサポート体制を整備することで、従業員からは「会社が社員を守ってくれると感じ、お客様への対応に集中できる」「対応に苦慮しているときでも、上司にすぐ相談できて、サポートしてくれる」という安心感を持てることが期待できます。
この点についても、実際の取り組み事例を参考にすることで、特に役職者を中心に主体的な取り組みができるカリキュラムをご提案しています。
このように、働く側では「カスタマーハラスメントを正しく理解し、未然に防ぐためのコミュニケーション術を身に付けること」が大切です。また会社組織においては、相手の要求に対し「できること」「できないこと」を明確にしたマニュアル等の整備、そして現場でカスタマーハラスメントが発生した場合、役職者を中心に「組織で対応する」という姿勢や、従業員へのサポ―ト体制を整備する必要があります。
中でも宿泊施設は、不特定多数の方との接客が基本となるため、カスタマーハラスメントに対する早急な対応への重要度が増してきていると言えます。
また、ただでさえ人手不足なのに、カスタマーハラスメントを受けたことに起因した退職の増加や、クレームとの違いを正しく理解できていないことによる、こちらに非があっても従業員から「カスタマーハラスメントを受けた」と申告してくるなどの諸問題が起きているのも事実です。そのため、更なる対策を講じる必要性を感じる施設が増えてきていることから、ご相談が多くなってきているのだと思われます。
カスタマーハラスメントは「社員の尊厳を傷つけ、安全で働きやすい職場環境の悪化を招くもの」ですが、一方でクレームとカスタマーハラスメントの違いを、正しく理解したうえで、これからも、お客さまからのご意見やご要望に対し、真摯に対応していく姿勢は変えないことも大切です。
そして研修や講演は、一度行ったから対策は万全という訳ではなく、法整備の進捗や実情に合わせ、継続的なブラッシュアップが必要です。
特に採用が困難で、人手不足が前提の施設にとって、限られた人員で対応していかなければならない条件下では、これらを整備することが当たり前の状況となってきました。
対策が不十分な施設こそ、社員に対しハラスメントをしていることになるのかもしれません。今一度、自社での取り組みについて振り返り、気になるところがございましたら、ぜひご相談ください。